六韜 二巡目 『 目指すは簒奪併呑』 第34回 「竜韜1、王翼篇1、軍中枢の18ポスト、1~5」


六韜の二巡目、始めました。
ようやく三つ目の竜韜に入ります。

『六韜』二巡目
34回
竜韜1 王翼篇1


今回から三つ目の韜であります、
竜韜に入ります。

今回は竜韜最初の篇、
王翼篇。

ココから太公望への質問は周の武王によるものになり、
舞台設定の上では文王が亡くなった後。
つまりは、
殷の中枢を既に情報戦とスパイ工作でもって機能停止に出来て、
最後のフィナーレに近い軍事行動を起こす準備に入ったということであり・・・。

王翼篇の内容は、
敵を倒す軍にあっては軍中枢に必要な役目が大事になるも、
どういったものがあるかという武王の質問から始まり、
それに太公望が答え、
軍中枢、将軍の周りを固めるポストについて18を紹介。

今さらこれらの具体的なポストが大事というよりも、
こういう役目と、
その役目をこなせる人間が必要で、
なおかつ分業も必要ぐらいの意味合いで読んでいくもので。
今回は1から5。

王翼篇 一・・・
「腹心(ふくしん)人数一名
・・・・・・
(ぼう)を賛(たす)け卒(そつ)に応じ、
天を揆(はか)り変(へん)を消し、
計謀(けいぼう)を総覧(そうらん)し、
民命(みんめい)を保全(ほぜん)するを主(つかさ)どる。
・・・・・・
謀略面で全面的に補佐し全軍の変化に素早く対応し、
コチラに有利な時勢(天)を強調し、コチラに不利な事態(変)を未然に防ぎ、
裏工作としての謀略から軍事計画まで全てを把握し、
民衆の力を消耗し過ぎないようにする役目を負う。

将軍に一番近い知恵袋としての立ち位置の「腹心」
謀略面について全面的に知っている、
というのは、
文伐・・・敵国内への工作についてよく知ってるか、
あるいは直前までその工作に参加していて、
そのスパイ戦・情報戦にあっても重要な地位にいた・・・。
つまりは太公望そのもの。

自分達の手で作り上げた、
敵国の王・敵国中枢・民衆がバラバラになっているという天の意志をフルに活用し、
その情勢が予想外の動きによって台無しにならないように動く。
そして、
軍地行動によって多大な負担を強いられる民衆への負担を最小にする、
それは、
自軍後方の自国の民衆だけでなく、
これから攻め込む敵国の民衆のことも考える。
目的はあくまで皆殺しではなく、
敵の王を殺した後の国の併呑・・・。
もしも消耗させ過ぎたら、
後方の不満だけでなくせっかく手に入れた敵国からも利益がなくなる。

王翼篇 二・・・
「謀士(ぼうし)人数五名
・・・・・・
安危(あんき)を図(はか)り、
(いま)だ萌(も)えざるを慮(おもんぱか)り、
(おこな)うに能(よ)きかを論(ろん)じ、
賞罰を明らかにし、
官位を授(さず)け、
嫌疑(けんぎ)を決(けっ)し、
可否(かひ)を定(さだ)むるを主(つかさど)る。
・・・・・・
軍の周囲の安全を確保し危難を把握し、
まだ表面化していない軍の障害となる事態を常に考え、
軍事行動として実際に行うことが出来るかを論じ、
賞罰を見える形にして実行し、
賞を受けた者に官位を授け、
罰を受ける者の嫌疑を決し、
やるべきか否かの問題に結論を示す役目を負う。

軍全体の動きを見ながら、
軍が維持できるかを考える「謀士」
見るのはあくまで軍が動き始める前から軍事行動中のことで、
スケールはあくまで軍全体と戦場の一歩手前。
軍という組織を目的達成に向けて維持できるかを優先して見る。

最も注意する軍内の問題は、
軍のモチベと規律を決める賞罰の運用
賞を与えるべきところで与えなければモチベがダウンし、
罰を与えるべきところで与えなければ規律が保てず、
与えるべきでない人物に罰を与えれば軍への信頼が揺らぎ反目の芽が軍内に散らばる・・・。
これは国全体における賞罰篇の前提とあまり変わらないと思われ。

ただ、
賞の象徴である官位まで軍内の組織で与えられるというのはなかなか判断が難しく?
下級貴族としての士については決定権が軍にあるということにするのか、
それとも、
軍事行動が成功に終わった後に功績を上げた者に官位を授けるよう要望書を出すということか・・・。
そこんところはよう分かりません。

王翼篇 三・・・
「天文(てんもん)人数三名
・・・・・・
西暦(せいれき)を司(つかさど)り、
風気を伺(うかが)い、
時日(じじつ)を推(お)し、
符験(ふけん)を考え、
災異(さいい)を校(はか)り、
天心(てんしん)去就(きょしゅう)の機(き)を知ることを主(つかさど)る。
・・・・・・
天文は、
星の動きと風の向きについて通暁し、
軍事行動を起こすに適した日を意見し、
吉凶の兆しを判断し、
災いと見える事象について評論し、
コチラの軍が天の意志に従っているか否かを考える役目を負う。

自然現象や気象について、
今のように簡単に知れなかった時代には、
そういった現象を判断できるのはほとんど占いのレベル。
三国志の孔明が赤壁の直前に見せた気象の読みが仙人のように見られたようなもの。

現象の記録の蓄積によって分かる時もあれば、
全く分からない時もあるけども、
全く分からないという状態は許されないのが軍における士気。

古代中華兵法内の「占い」の扱いと言えば、
孫子尉繚子では徹底して占いを禁止していたのに対し、
呉子では民衆の人心掌握のために使う記述があり・・・。

六韜にあっては舞台設定が深く関わっているとされ、
周の武王がこれから討伐する相手は殷。
殷は現状では天下を持っている、
殷の王朝としての始まりは天の意志に反した夏王朝の暴君桀王が天の意志に反する横暴をやりまくったところで殷の湯王が桀王を倒して王朝を立ち上げ天下の管理を任されたと宣言した存在。
それを倒すのだから形式上は周は反逆の徒。

文伐篇順啓篇三疑篇でもって、
ひたすら殷の求心力を奪いコチラの勢力の民衆求心力を高めても、
それまで民衆に常識として広がっていた体制の結集力はバカに出来ない。
ことに天の意志が周についているかは情報工作を知らず純粋に信じている民衆には分からない。
もしも行軍の途中で何か日頃見られないような自然現象にぶつかって、
それを見て民衆から徴兵した兵士達が「天の意志だ」と勝手な解釈をして恐怖に駆られたら逃散しかねない。
その時のために、
この自然現象は自分達にとって吉兆だと言い聞かせる必要が出てくる。

言ってしまえば説得のためのロジックを作り上げるのが「天文」
天の意志に従ってるかどうかを判断するのではなく、
コチラが天の意志に従っているという意見のまま、
どうやってそれを兵士達に納得させるかの論理を示す・・・。

ことに占いや宗教の活用については、
ニッコロ・マキャベリの政略論内で共和政ローマの軍が鶏占い「ピレリィ」を多用していたという話があり、
その占いの結果をいかに軍のモチベアップにつなげられるかは弁論力にかかっているということで。

王翼篇 四・・・
「地理(ちり)人数三名
・・・・・・
軍の行止(こうし)の形勢(けいせい)
利害の消息(しょうそく)
遠近険易(えんきんけんい)、水涸山阻(すいこさんそ)
地の利を失わざるを主(つかさど)る。
・・・・・・
地理は、
軍が行くべきか止まるべきかを地形から判断し、
進むにあたって得られる利益とその過程で発生する害を推測し、
遠い近い、進むに険しいか簡単か、水の手があるか否か、山に阻まれていないか、
そういった地形を前に地の利を失わないようにする役目を負う。

その名の通りに地形を把握して、
それを基準に判断をする「地理」。

行軍するだけで多くの兵士が命を落とすのが大陸中華の古代から中世の軍事事情。
退却というわけでなく進んでいくだけでかなりの数の軍がいなくなるという記録は日本の戦国時代からはなかなか想像できない要素。

長期間じっくり訓練した熟練兵の部隊ならまだしも、
数か月前まで一般民衆だった兵士が大量にいる大軍にあっては、
進みにくい場所を無理に進むだけで軍が減りかねない・・・。
それを「地理」は最小限にしないといけない。

こと大軍の維持とあっては、
長期訓練を受けた部隊の規模は、
舞台設定にあっては殷のほうが圧倒的に上。
地の利を失うというのはその差が一気にあらわれるということになる。

王翼篇 五・・・
「兵法(へいほう)人数九名
・・・・・・
異同(いどう)を講論(こうろん)し、
成敗(せいはい)を行事(こうじ)し、
兵器を簡練(かんれん)し、
非法(ひほう)を刺挙(しきょ)するを主(つかさど)る。
・・・・・・
敵軍とコチラの軍の状態を比較して分析を行い、
コチラの作戦が成功するか失敗するかをシミュレートし、
その分析に合わせて兵器を改良し、
自軍が出来もしない無茶な軍事行動を起こしてしまうことを止める役目を負う。

軍全体のまとめあげに比重を置いていた「謀士」に比べて、
軍事行動そのものについての計略に主眼を置く「兵法」

さりげなく、
後方の武器や兵器の製造について注文する権限がある・・・。

何よりも「非法」
その時々の背景でもって編み出された戦略のセオリーに大きく反することをやることを止める、
というのは重要な役割で。
ただ、
奇襲の中にはセオリー外やセオリーに反することをやるのも定番なので、
全くやらないのが良いというわけでもない。
なので、
もしもやる時には、
多くのものを従来以上に改良しないといけない。
それが「兵器の簡練」

最後まで情勢的に不利な状態を前提としているだけに、
兵士の頑張りでもってなんとかするということは出来るだけ避けたい。
兵士に無理をさせてさらに失敗した時には、
それまでの敵国内への工作すら台無しにしてしまいかねない。


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