六韜 二巡目 『 目指すは簒奪併呑』 第27回 「武韜8、文伐篇2、敵を自滅させる手法5~7」


六韜の二巡目、始めました。
まずは現在は二つ目の武韜に入っております。

『六韜』二巡目
27回
武韜8 文伐篇2


今回は前回の続き、
直接的な武力に寄らずに敵国を崩壊させる手法「文伐(ぶんばつ)のお話。
具体的な手法として12例が挙げられていることから文伐十二節なんてカッコイイ呼び名があり、
その大部分が、
暴走誘発、買収、ハニトラ、裏切り助長、
の四つに分類されます。

今回は文伐十二節のうち5~7のお話。

殷周戦争という舞台設定から、
自身よりもはるかに強大な敵を倒すということを前提としている六韜。
周が殷(イン)に挑む時も、
紂王が即位した時点では周(西伯)と殷とでは圧倒的な国力差があるわけで、
ゆえに情報戦でもって敵国を内部から崩壊させる必要がある。

敵国の王を調子こかせて暴走させるのはとても効果的であると同時に、
その王を支える人材・・・忠臣や能臣も無力化させないといけず、
王から離したりむしろ国内で対立状態に置かないといけない。

文伐篇2 第五節・・・
・・・・・・
その忠臣(ちゅうしん)を厳(げん)にし、その賄(まいな)いを薄(うす)くし、
その使いを稽留(けいりゅう)し、その事を聴(き)く勿(なか)れ。
(すみや)かに代(か)わりを置くことを為(な)さしめ、
(おく)るに誠事(せいじ)を以(もっ)てし、親(した)しみてこれを信ずれば、
その君 将(まさ)に復(ま)たこれに合(あ)わんとす。
(いやし)くも能(よ)くこれを厳にせば、
(くに)(すなわ)ち謀(はか)るべし。
・・・・・・
敵国に忠臣がいたとして、
ソイツには厳しい態度を取り賄賂も少なく渡す。
その忠臣が使者としてやって来ても宿に留め置き続けて話も聞いてやらない。
そうやって敵国がすぐに代わりの者を派遣するように仕向け、
新たに派遣されてきた使者には誠意をもって対応し厚遇して信頼をよせる素振りを見せる。
そうすると敵国の王はその出来事を基準として国内での忠臣のランクを変える。
これを徹底できれば敵国全体に謀略を仕掛けらるようになる。

暗殺やスキャンダルによらずに敵国の政治中枢から有能な人材を消す、
という手法においては第五節はかなり有名な文で。
成果を上げる人間が有能な人材だ、
という人事の前提を逆手に取った外交手法。

有能で敵国王への忠誠あふれる臣下がやってきたら、
その人物には絶対に功績を与えず敵の王からの信頼をも奪う。
新たにやってきた人間を厚遇すれば、
有能な人間は敵国王の手によって合法的に左遷される、
うまくいけば悪い噂でもう一押しすれば処刑もありうるかもしれない・・・。

もしも次にやって来る人間が有能だったら全く意味がない、
という感じがしますが、
目的はその忠臣をピンポイントで潰すことではなく、
敵国の人事を秘密裡にコントロール下に置き中枢をバラバラにすること。

コチラの思惑通りに最初の忠臣が敵の王により無能認定されて左遷されればその人物の忠誠心に影が差す。
忠誠心が揺らいだ人間は離間の対象としてうってつけ。
元が優秀な人間をコチラのスパイに出来ればとても都合がいい。

現代の外務省の大使が実務を取り仕切り、
交代も簡単ではないということであまり通用しないように見えるこの手法。
ただ、
まだ大臣クラスでの交渉という面では通用するかもとされたりで・・・。

敵国内部に反目の芽を撒きまくる。
そうなれば買収工作もハニトラも裏切り助長もとてもやりやすくなる。

文伐篇2 第六節・・・
・・・・・・
その内(うち)を収(おさ)め、その外(そと)を間(へだ)て、
才臣(さいしん)、外を相(たす)け、
敵国、内に侵(おか)さば、
(くに)(ほろ)ばざること鮮(すくな)し。
・・・・・・
敵国の中枢に近い臣下を買収し、
中枢から遠い臣下を離間させ、
有能な臣下は外国を手助けし、
敵国の中枢は自国内の人民を痛めつけることに専念する。
そうなると滅ばない国のほうが少ない。

第五節からの延長として第六節を見ると、
敵国内の中枢にいる人材の一部はコチラが出世の糸口を与えたことになりそれなりにグリップがきいている状態で、
中枢外に配置されている臣下の中で左遷された人間の一部は忠誠心が揺れているために安くかつ簡単に離間できる状態。

出世した者はコチラの言う通りに、
出世しなかった者は怒りに任せ、
敵国内の人民を痛めつける政策を連発する

それはもう外縁から中枢までコチラの影響力が深く及んでいるといった状態でよく、
進んでコチラに帰順する勢力が次々と出現する素地が出来上がっている。

外部からの意志に関係なく、
コチラの考えのままに間違いなく人事を進めているつもりが、
気付かぬうちに敵に人事をコントロールされている状態はとても危険。
組織内の人間の大部分が組織への忠誠心を失い、
各々の利益のためにだけ動いている。
日本でも大企業でまま見られるとされるなんとも末期的な状態。

そこまで行くには第五節をひたすら繰り返す必要が出てきていて、
実際のところかなりの世代を経る必要も出てくる・・・。

その間にコチラの意図が察知されないようにしないといけない。
ゆえに王様自身へのダイレクトな工作も必要となるわけで。

文伐篇2 第七節・・・
・・・・・・
その心を錮(こ)せんと欲せば、
必ず厚(あつ)くこれに賂(まいな)い、
その左右の忠愛(ちゅうあい)を収(おさ)め、
(ひそか)に示すに利を以(もっ)てし、
これをして業(ぎょう)を軽(かろ)んぜしめ、
(しか)して蓄積(ちくせき)は空虚(くうきょ)とす。
・・・・・・
敵国の王の野心を抑え込みたいなら、
必ず多額の賄賂を贈り、
さらに敵の王の側近も買収し、
何気なく物事を伝える時にもこっそりと利益をチラつかせ、
敵の王から側近に至るまで国の運営という仕事に集中できなくし、
さらには国をまともに運営して得られる蓄積すらも空虚なものに見せる。

前回の第一節と第四節が王様を暴走させるための手法で、
第一節が敵の王をひたすら調子に乗せる。
第四節が政治に集中できないように美女を送り込む。
そして第七節では王様どころかその側近まで全部買収。
利益でもってまともな判断を指せない。

王様という全ての所有者を買収しにかかるとしたら、
通常の金品というわけにもいかず、
とんでもない珍品だったり、
それこそ美女であったり、
時によっては美田や風光明媚な土地すらも与える。

それも、
敵の王の野心がコチラ・・・特にコチラの王様に向かないようにするためなので、
自国の領地だって進んで与えることもあれば、
むしろ第三国の土地に目が行くようにする必要すら出てくる。
コチラのフトコロが痛まないのなら第三国のことなんか知ったこっちゃないというのが、
大陸中華に限らず大陸抗争の基本心理。

完全に内部崩壊を起こさせてその能力がガタ落ちするまで、
舞台設定である周の文王・武王は殷の敵意を買わないように努めないといけない。
敵から敵と見られないようにする、
この辺りの面従腹背という枠では収まらない、
限りなく忠誠心にあふれた友好的な存在と見られるようにする。

友どころか信じられる国など一つもない、
という今なお続く世界の原則を凝縮したようなお話で。

次回も文伐十二節の続きとなります。


当ブログではブログそのものの継続、
並びにさらに多くの戦略書を紹介しブログの内容を向上させるために寄付をお願いしております。
このブログを継続させるためにチップを贈る