六韜 二巡目 『 目指すは簒奪併呑』 第26回 「武韜7、文伐篇1、敵を自滅させる手法1~4」


六韜の二巡目、始めました。
まずは現在は二つ目の武韜に入っております。

『六韜』二巡目
26回
武韜7 文伐篇1


今回の文王による太公望への問いは、
「文伐(ぶんばつ)の法は奈何(いかん)
という篇題そのまんまの内容。

「文伐」というのは文でもって敵を討伐する、
という意味合いになり、
ここに言われる「文」というのは、
武力によらぬ方法全般のこと。
言ってしまえば情報戦で敵を崩壊させる手法。
主に敵を自滅させることをメインとした話になります。

太公望は具体例として「文伐十二節」。
12の手法があると答え、
主に敵を自滅に導く方法を紹介します。
ちなみに大まかに言ってしまえば?
暴走誘発、買収、ハニトラ、裏切り助長の四つにほとんど分類できるとされます。
以下、
一つずつ紹介。

文伐篇1 第一節・・・
・・・・・・
その喜ぶ所に因(よ)って以(もっ)てその志に順(したが)う。
彼 将(まさ)に驕(おご)りを生(しょう)じ、
必ず奸事(かんじ)あらんとす。
(いやし)くも能(よ)くこれに因(よ)らば、
必ず能(よ)くこれを去らん。
・・・・・・
敵の王の喜ぶことをやってやり私欲まみれの野心にも同調してやる。
そうしたら敵の王はおごりたかぶり、
必ずよからぬことをやり始める。
これを実行できればコチラにとっての敵という脅威を取り除ける。

第一節は相手の暴走を誘発させる手法。
一見すると相手のパシリになっていてひたすら搾取されまくっていいように使われている。
しかし、
それは相手の暴走を誘発させるためのもの。
調子こかせてよからぬことをやらせる。
そのよからぬことがコチラに向かない限りは、
その敵国という脅威はコチラに向いていない、
一時的とはいえ脅威を除去できたも同然と言える。

六韜の舞台設定である殷周戦争にあっては、
死後に文王と呼ばれる西伯侯姫昌は殷の紂王を諫めて投獄されるということになりながら、
領地である西伯は反抗的な態度をとるでもなく人質をとられたとして殷のべらぼうな要求に応えたとも言われ、
財宝はおろか姫昌の息子の命まで与えたとかなんとかで。
姫昌が人質になることで紂王を調子づかせることに成功したとも言えて。

そして敵を自滅させるにはもっともっと深刻な暴走を誘発させる必要がある。
そのためには王だけでなく、
敵国の臣下への接近も必要になる・・・。

文伐篇1 第二節・・・
・・・・・・
その愛する所を親(した)しみて、
(もっ)てその威を分かつ。
一人(いちにん)両心(りょうしん)ならば、
その中(なか) 必ず衰(おとろ)えん。
(てい)に忠臣(ちゅうしん)なくば、
社稷(しゃしょく)必ず危(あやう)からん。
・・・・・・
敵国の臣下に接近する時に本人の好みに通じて親交を持ち、
その臣下の自国への忠誠を減殺する。
臣下に二心あれば敵国内は必ず衰退する。
宮廷に忠臣がいなくなれば、
国のまとまりが必ず危うくなる。

スパイによる情報戦とは何かと言えば、
孫子の用間篇で語られるように具体的には敵の内部にコチラの協力者を作ることで。
そのためには敵の臣下への接近が必要。
孫子先生は敵国要人の身近な人物からその人物に身近な人物さらにその人物に身近な人物にさらに・・・
というようにつながりをさかのぼっていくかのように接近していって、
最後に要人に接近してオトすという手法がにおわされ。
上の文では、
とかく接近する忠義の臣にターゲットをしぼったら、
その人物が何を大事にしているか何を好んでいるかについて調べ上げて、
そこを起点に近づく。

共通の好みでもって親交をもち心をグリップ。
自国の王への忠誠と個人のつながりを天秤にかけさせる。
忠臣が揃ってそんな状態となっていれば、
国のまとまりはなくなる。

ことに、
古代中華の戦国時代の段階で、
各国の官僚や高級役人たちは他国の役人や官僚と独自のつながりを持つ「官場」というものを形成していたという話もあり、
その辺を見ると官僚や役人同士の国家間のつながりは大陸中華では割とあったこととされ、
「愛する所」大事にする所、好む所・・・というのも、
主義主張や派閥争いに乗じることとも言われ、
個人的なことに限らないという見方もあるそうで。

つまりは、
臣下、官僚、役人に接近して同調するネタはたくさんあるから、
誰でも篭絡される可能性はあるということで。

文伐篇1 第三節・・・
・・・・・・
(ひそか)に左右に賂(まいな)い、
(じょう)を得ること甚(はなは)だ深く、
(み)は内(うち)にし情(じょう)は外にす。
国 将(まさ)に害(がい)(しょう)ぜんとす。
・・・・・・
王の側近に賄賂を贈り、
その心を深くつかみ、
自国のことを考えられずコチラのことしか考えられないようにする。
敵国は遠からず害に見舞われるだろう。

古代から前近代まで古今東西で広く通用し、
むしろ権力者相手の最低限の作法とまで言われることもあり、
本場大陸中華では現在でもバリバリ通じるとされるマイナイ。

そんな買収による敵の中枢の篭絡。
上に行けば上に行くほど難しくなるのが注意点で。
理由としては高給取りになるほど額が大きくなっていくからで。

敵国の王を左右から支える側近。
形式的には政治と官僚機構の最高峰たる宰相と軍事の最高峰たる大将軍。
実質的には王直属の情報機関を取り仕切る公式非公式あやふやなブレイン。
宰相・大将軍・情報機関と言えば国内トップクラスの高給取り。

こういう存在に買収を仕掛けるには額はスゴイことになる。、
孫子先生が行っていたように情報戦にかかる費用は戦争よりもグッと安い、
ということに変わりはないものの?
問題はどうやってこういう注目が集まりやすい上に情報戦のプロとも言える連中に買収を仕掛けて成功させるかで、
そもそもからして金銀財宝を運びこむことも簡単ではない。
そう簡単ではないけども?
このクラスの人間の買収に成功すれば、
敵国に多大な害を与えることになる。

文伐篇1 第四節・・・
・・・・・・
その淫楽(いんらく)を輔(たす)け、
(もっ)てその志を広くし、
厚く珠玉(しゅぎょく)を賂(まいな)い、
(たのし)ましむるに美人を以てし、
(じ)を低くし聴(ちょう)を委(くわ)しくし、
(めい)に順(したが)いて合(がっ)す。
(かれ)(まさ)に争わずして、奸節(かんせつ)(すなわ)ち定まらんとす。
・・・・・・
敵の王がよからぬ遊びにふけるように仕向け、
一つのことに意識が集中しないように散漫にさせ、
莫大な宝を献じ、
日々の楽しみとして美女をあてがう。
コチラはへりくだった言葉を使い耳障りの善いことを言い、
敵の王の命令に従いながらコチラの目的に合わせる。
敵の王はコチラと争うこともなく天下に良からぬ存在として認識されるだろう。

ハイ、コチラが六韜の舞台設定である殷周戦争で最も有名な、
妲己を使ったハニトラ作戦を示す文。

名君として期待された殷の紂王は妲己の言うがままに失政悪政苛政を連発して殷の屋台骨をへし折る。
その妲己が殷の王宮に入るように文王が遠巻きに仕掛けたという見方がしっくりくる中華史上最大級の工作。
妲己による工作の下、
殷の紂王は人狩りと称して周辺の異民族に対して領土拡大につなげるわけでもないデタラメな軍事行動を繰り返し、
文王が生前の西伯侯姫昌の時には殷で投獄されてからも自身の領地から殷へと財宝を渡し続け、
紂王が妲己に飽き始めるとさらにその姉妹設定の二人の美女をさらに新たに送り込むということをやり、
文王健在中は殷の紂王には逆らわない姿勢をつらぬき、
直接の殷打倒は武王と太公望により着手。

ちなみに、
殷周戦争とよく似た設定で見事に当てはまるのが、
古代中華は春秋時代後期の長江下流域で展開された呉越戦争。
呉越という新興国の争いの中で、
呉王夫差が父王の仇として越を下すも、
越王勾践は側近范蠡の建策で美女西施を夫差へと送り込む。
夫差は西施のためにデカイ宮殿を作るは特別な食事のために沢山予算を使うわで、
一気に権威と国力を失っていき・・・。

歴史では呉王夫差は調子乗り期に入り、
古代の盟主たる覇者を目指して春秋の超大国晋と対立して、
その間に越が力を盛り返して呉を奇襲したのが呉滅亡の決定打になった、
ということで、
西施のほうはあんまりもう今では語られてないのかな?

送り込まれた美女が敵の陰謀によるものとしても、
いやあ権力者ってのはイイコトがあるもんだねえマジで。
俺も権力者になりたいと思った時期がありますわ。


当ブログではブログそのものの継続、
並びにさらに多くの戦略書を紹介しブログの内容を向上させるために寄付をお願いしております。
このブログを継続させるためにチップを贈る