六韜 二巡目 『 目指すは簒奪併呑』 第19回 「文韜19、兵道篇2、情報戦段階での不利の覆し方」


六韜の二巡目、始めました。
まずは最初の文韜の最初から。

『六韜』二巡目
19回
文韜19 兵道篇2


前回は独往独来という表現で、
全軍をひとまとめにして行動させることを理想とする集中機動原則が、
尉繚子とはまた違う前提で語られました。

今回は内容としてはその続き・・・ではなく、
ぶっつり別の内容となります。

呉子内で魏の武侯と呉起ィさんの戦場でこうなったらどうするかという戦術問答があったように、
ココでも武王と太公望の戦術問答が行われます。

兵道篇 抜粋2-1・・・
武王 曰(いわ)く、
「両軍 相(あ)い遇(あ)う。
 彼(か) 来たるべからず、此(これ)(ゆ)くべからず。
 各々(おのおの)(かた)き備えを設(もう)け、
 未(いま)だ敢(あえ)て先発(せんぱつ)せず。
 我(われ) これを襲(おそ)わんと欲するも、その利を得ず。
 これを為(な)すこと奈何(いかん)
・・・・・・
武王が尋ねた。
「敵味方の軍が対峙しているが、
 敵も襲い掛かって来ず、コチラも進軍できない、
 どちらも守りを固め、敵襲に備え、
 対峙が始まってもまだどちらも先手をうっていない。
 コチラが攻撃を仕掛けたくても損害ばかりが多くなりそうである。
 こういった状態をどうすべきか」

分かりやすい膠着状態
コチラが有利を確保することが出来ないままに戦場に到着し、
お互いがお互い先に手を出せない。
一見すると五分五分の状態に見えても、
前回の超高速機動・超短期決戦の象徴である独往独来の原則で行けば、
五分五分の状態は長期化を意味するのでコチラが不利。

ことに、
情報戦で優位に立って一方的に仕掛けるのはコチラだ、
という前提に立つ六韜にあっては、
五分五分の状態というのは前段階の情報戦で優位に立てなかったゆえに敗北同然。

しかも、
舞台設定が殷周戦争のうちまだ小さな周の側に立っているとすれば、
膠着・長期化はそのまま国力の大きさが戦況を左右し、
殷が強大である以上、周の側は不利。

そんな五分五分状態というコチラの不利な場合に太公望はどうするか・・・。

兵道篇 抜粋2‐2・・・
太公(たいこう)(いわ)
「外(そと)(みだ)れ 内(うち)(ととの)い、
 饑(うえ)を示して実は飽(あ)き、
 内(うち)(せい)にして 外(そと)(にぶ)く、
 一合一離(いちごういちり)、一聚一散(いっしゅういっさん)
 その謀(ぼう)を陰(かく)し、その機(き)を密(みつ)にし、
 その塁(るい)を高くし、その鋭士(えいし)を伏(ふ)せ、寂(じゃく)として声(こえ)(な)きが若(ごと)くせよ。
 敵は我(わ)が備うる所を知らざらん」
・・・・・・
太公望が答えた。
「外から見れば軍が混乱しているように見せかけ、その内実は整然としている、
 外から見れば飢えているように見せてその内実は充分過ぎるほどに兵士は食している、
 内実は精鋭が揃い事態の対処が出来るが外から見れば弱兵ばかりで反応が鈍そうに見せる。
 部隊の集結と分散を繰り返し、
 コチラの意図を隠し、動くためのタイミングを機密にし、
 陣地の塁を高くし、精鋭を見えないように配備し、静寂として精鋭部隊がいないようにする。
 敵からすればコチラがどこに重点を置いてるか分からなくなるだろう」

いろいろと言われておりますが、
簡単に言ってしまうなら、
コチラの内情を外から見られないようするために、
敵から見えるところは実情とは真逆の状態にして、
コチラが何を考えているのか、
コチラがホントに備えているところはどこか、
全てを隠す。

それでいて部隊の集中と分散を行う。
集中と分散については孫子先生の「分合を以て変を為す」と同じようなもので。

戦争の前段階の情報戦で優位を獲得できなかったのなら、
戦場でコチラの情報を隠すことで敵に情報収集の負担を増やさせる。

兵道篇 抜粋2‐3・・・
「その西を欲せば、
 その東を襲(おそ)え」
・・・・・・
西が欲しいなら東を襲え。

三十六計声東撃西とは似ているようで微妙に違うのか同じなのかちょっと悩む文章。
コチラの意図を隠し、
その意図を察知されないように、
行動までもギリギリまで敵を騙すことを念頭に置く。

そうやって敵にコチラの意図を見抜かせず、
あるいは別の目的があるかのごとく誤誘導し、
敵の主力をコチラに向けない。
そうやって膠着状態を浮動状況に持っていく・・・。

続いて武王の新たな質問。
兵道篇 抜粋3‐1・・・
武王 曰(いわ)
敵、我が情を知り、我が謀(ぼう)に通ぜば、
 これを為すこと奈何(いかん)
・・・・・・
武王が尋ねた。
「敵がコチラの内情を知り尽くし、
 コチラの作戦計画から諜報まで全て把握していたら、
 どうしたらよいか」

武王はさりげなく言ってますが、
当ブログの孫子三巡目で言えば情報戦で敗北した状態であり、
六韜の原則にあってもかなり危険。
敵のほうが主導権を持ち、
コチラは短期決戦すら仕掛けらず、
なおかつそういう状態だとコチラは敵のことがさっぱり分からない。

風前の灯ともいえる状況を武王に想定された太公望、
いかにしてその状況を突破するかと言えば・・・
兵道篇 抜粋3‐2・・・
太公(たいこう)(いわ)
「兵勝(へいしょう)の術は、
 密(ひそ)かに敵人(てきじん)の機(き)を察(さっ)し、
 速(すみ)やかにその利に乗(じょう)じ、
 復(ま)た(と)くその不意(ふい)を撃つ」
・・・・・・
太公望は答える。
「戦争に勝利する方法は、
 敵に気付かれぬように敵が動く機会を捉え、
 速やかにその動きに合わせて敵が利益を得るために動く流れに乗じて、
 敵が利を得ると思ったところで素早く予想外の不意打ちを仕掛ける」

相手がコチラの情報の全てを掌握しているということは、
コチラはもう相手の実情を知ることは出来ないも同然。
むしろコチラの情報が全て筒抜けと気付くことすら出来ない。

ということは、
不利な状況をすぐになんとかできるわけでもない。
なので、
もう敵の流れを乗ってみる。
相手の策略に乗った素振りを見せて、
最後の最後に勝つ、
というのは孫子先生の言葉でもあり、

そもそもから相手がコチラに情報戦で優位に動いている、
ということは、
コチラが情報戦で不利だということすら気付かない状態すらありえるわけで、
コチラの不利が分かったり察したり出来ることこそが子の場合とても重要であり、
だったら最後の最後で敵が確信をもって動いたところを紙一重でかわして、
予想外の事態を最後の最後に少しだけ作って攻撃する・・・。

捕食動物に最も隙が出来るのが、
獲物をしとめる寸前。
なんて言葉があるように、
最後の最後で一瞬の不意をつく。

騙されないように、
なんてコチラが動かないようにしても、
情報戦で相手が優位になっているなら、
かえって動かないほうが不利になることもある。

この辺りは前回と同じ短期決戦構想を捨てられないということで。

これにて六韜最初の文韜は終わります。
次回からは二つ目の武韜篇に入ります。



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